スクードがアリビオンに入所して、間もない頃の出来事……。

 


 「ボラド所長、この笹はなんですか?」



 「おお、それか、それはだな……七夕を知ってるかな?」



 「短冊に願い事を書いて、笹につるす行事ですね」



 「そう。そしてこれは七夕にちなんで作った、人の願望を読む能力者の力を含ませた笹でな、
 この笹の前で強く願うだけで、吊るされている短冊に願い事が書かれるんだ」


 「願った事が叶うのですか?」



 「いや、そうとは限らないのは一緒だ」



 「なんだ、たいしたものじゃないな」



 「気軽に風流を感じられていいじゃないか。そういえば、遠くからでも、
  人の強い願望を察知すれば短冊に書かれることがあるらしいな。見てみると面白いかもしれん」


 「ひとの願望なんて、たいていロクなもんじゃないだろ」



 「少し見てみるか」



 「覗き見しちゃっていいのかな……」



 「見られたくなかったら、こんな所に願いを書き残さないと思うよ」



 「でも、本人にそのつもりがなくても、遠くからでも強い願望を察知して書かれるって……」



 「おい、見てみろよこれ」

 

 

活躍が増えますように


 


 「よほど活躍の機会が無いのだろうな」



 「立場的にも影の薄い人なのかな、例えば副所長とか……」



 「こ、こんなのも……」

 

 

顔がこれ以上老けませんように


 


 「え、これもしかしてボラドさん……」



 「はははは! これはなるほど面白いな!」



 「気にしてるのか、所長www」



 (ちょちょ、ちょっとみんな、所長が近くに……!)



 「おや、何か面白い願い事でもあったのかね?」



 「いや、あの、えっと……!」



 「いえ、見る価値も叶える価値もない、愚の骨頂のくだらない願いでした」



 「そ、そうか。では私はこれで失礼する、ゆっくり楽しんでくれ」

 

 


 


 「なんとかごまかせたな」



 「お前、時々すごいよな」



 「危なかった……」



 「あ、この願い……」

 

 

 

世界中の人間が私にひれ伏しますように


 

 


 「エリーさんだ」


 「エリーさんか」


 「エリーさんだな」


 「エリーさんだね」

 

 

いい女ができますように


 


 「どこの誰だこいつは、ヘタレ具合が目に浮かぶようだ」

 

 

皆が俺を崇拝しますように


 


 「自分が神だとでも言いそうな奴だな、俺がその自信をぶっ壊してやりてえ」

 

 

世界から能力が消えやがりますように


 


 「能力に対して、劣等感があるのかな……」

 

 

人間を追い出し、怪物だけの新しい世界を創る野望が叶いますように


 


 「なんだ、このふざけた願いは!」



 「どこにだって、酔狂な人間ってな、いるもんだ」



 「こういう人と、いつか戦うことになるのかな……?」



 「さあ……こいつにもし力があれば、そうなる日も訪れるかもな……」



 「胸糞悪い願望は放っておいて、次だ次」

 

 

 

 

 

アロクの顔がせめて人間に見えるようになりますように


 


 「…………」



 「…………」



 「あっ、うおえ!?」



 「これお前だろ! どんな願い事だロギンスーーーーッ!!」



 「あ、いや、その顔が人間に見えなくてな、恐怖を克服したかっただけなんだ」



 「人の顔が人間に見えないとか、どういう事だああぁぁーーっ!!」



 「いや本当に、その顔をやめるか、人間をやめるかの二つに一つだと思うぞ!」

 

 

ドドドドドドド……

 

 


 「またあの二人は……また森で迷うんじゃないかな……」



 「ところでカーシル君は、彦星と織姫の話は知ってる?」



 「知ってるよ」



 「1年に1回しか会えないんだよね……、そんなに期間が空いて、心変わりしたりしないのかな?」



 「1年も会わないからからこそ、強まる想いもあるさ」



 「私たちも、たとえ何かで距離が離れてしまっても、お互いを想う気持ちはずっと失われずにいられたらいいね」



 「…………」



 「ごめんね、こんなこと言ったら、重くなるよね」



 「僕にはさ……、この能力があるから……」



 「お互いの距離が、どんなに離れてしまっても、僕は必ず会いに行くよ」



 「ユサが僕のことを嫌いにならない限りね」



 「…………」



 「うん、ありがとう。これからもよろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大切な人を守れますように

 

いつまでも一緒にいられますように

 

 

 

 

 

 

 

 

ロギンスより足が速くなりますように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが、私を止めてくれますように。願わくば、せめてもう一度、フーリィに……

 

ジェゾが、無事にまたこの場所に来てくれますように

 

 

 

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